インタビュー
Firefox と仲間たち 第 2 回
矢島進二さん (日本産業デザイン振興会)

ブラウザにGマークが当たり前になる日がやってくる

10 月 25 日グッドデザイン賞の授賞式に Mozilla Japan が招待された。Firefox 2 が 2007 年度グッドデザイン賞を受賞したからだ。

Gマークで知られるグッドデザイン賞は財団法人日本産業デザイン振興会が主催しているもので、1957 年に通商産業省 (当時) によって創立された「グッドデザイン商品選定制度」を母体とした総合的デザイン評価・推奨制度で、今年で 51 回目を迎える。これまでに 32,000 件以上が受賞しているが、車や家電、文具などのブロダクトがほとんどだ。そのグッドデザイン賞になぜ Firefox が選ばれたのか。グッドデザイン賞の事務局スタッフの矢島進二さんに話を伺った。

「グッドデザイン賞というのは、ものづくりや生活の中でデザインの存在理由や社会的価値を認識してもらうための活動のひとつで、コンぺのように競うのではなく、『その時代のよいデザインとはどんなものなのか』をみんなで考える運動体であり、ひとつのプラットホームだと思ってください。応募対象は幅広く、以前からソフトウェアやゲームなども受賞していますが、プロダクト色がどうしても強いので、参加出来ないと思われている方がまだ多かった状況にありました。デジタルやネットワークの世界がこれだけ身近になり、デザイン面でも評価すべきものが増えてきています。そこで今年から審査フレームを変更し、コミュニケーションデザイン部門にデジタルメディアというユニット (カテゴリー) を新しく設けることにしたのです」

具体的には、今まで商品部門で扱っていたゲームソフトやコンピュータアプリケーション、業務用コンピュータシステムなどと、コミュニケーション部門で扱っていたウェブサイトやデジタルコンテンツなどを統合し、「デジタルメディア」として応募できるようにした。もちろん審査委員もその分野の専門家を集めている。

「審査では表面上の表現やアイデアだけではなく、どういうコミュニケーションを投げ掛け、それによって新しい何かが生まれ、さらにデザインがどう貢献しているのかどうか。グッドサービス、グッドコンテンツであることも審査のポイントになっています。Firefox が受賞した一番大きな理由としては、インターネット時代に誰もが欠かせないブラウザというソフトの選択肢をきちんと提供されていること。これは Mozilla のミッションと重なるところもあると思うのですが、あくまでユーザーの視点で開発されたツールであるという点が高く評価されました」

矢島さん自身も日本語版リリースと同時に Firefox をサブ的に使っているそうだが、毎日使うツールとして安定していて、細かなところが配慮されているなど、開発する側の姿勢が伝わってくる点が気に入っているという。

「個人的には、自分自身のやりたいことを拡張するのがソフトウェア本来の目的であって、使っている人が気持ちよく使え、さらに表現することを刺激しアシストすることがとても大切だと思っています。デザインは、作り手の意志は込めるべきですが、一方的に押し付けたりひとつの枠にはめてはいけないものです。Firefox のように自己主張を抑えユーザーが使いやすいようカスタマイズできる環境を提供するのも、デザインとして評価されるべきだと個人的には考えます。特に毎日使いネットの世界とのインターフェイスであるブラウザにはその人の好みが反映できたり、その時の気分やモードで変えらたほうがいい。たとえば仕事とプライベートが全く同じブラウザーでいいのだろうかとずっと思っていました。僕自身はどんなものでも選択肢がなくなると、その業界の発展はないと思っています。実際に使うユーザーが自分の意志で取捨選択でき支持されるものだけが残っていく、支持されないものは自然と消えていく。ある意味当たり前のことですけども。特にネットの世界は、オープンでフリーなものであるべきと思っている世代ですし。ですので、Firefox に刺激を受けて、もっといろいろな種類のブラウザが登場するようになってほしいと感じています」

オープンソースがデザインに与える影響を探りたい

グッドデザイン賞は毎年 3,000 点近い応募があり、国内でデザイン部門を持っている製造業はほとんどが参加している。歴史が長く影響力がある賞だけに、一部ではバーチャルなものを評価することに意義を唱える声もあったようだ。だが「そうした違和感やギャップも含めてデザイン全体を考えてもらう機会になってほしい」と矢島さんは語る。

「日本産業デザイン振興会の役割は、グッドデザイン賞のような機会を通じていろいろな人にデザインの必要性や可能性を感じてもらい、新しい発見や価値を生み出してもらうきっかけを生み出すことにあります。ここ数年でデザインはようやく誰もが口にする言葉になってきましたが、さらに社会的な価値を高めるために、いろいろな取り組みをしています。つまり、デザインと社会をつなぎ、社会をデザインでエンカレッジする黒子のような存在であって、組織の在り方としては Mozilla に似ているところがあるかもしれません」

矢島さんは Firefox の開発のベースになっている Mozilla やオープンソースにも興味を持っているという。「多くの人が無償で自発的に開発に参加するという新しいものづくりのスタイルは、今までと異なる産業が生まれる可能性だけでなく、次のデザインを考える大きなヒントがある。また職に就くということや働くという意味合いが変容している状況の中、それこそ新しい選択肢としてもっと顕在化すべきこと」と感じているようだ。

「今回のグッドデザイン賞のデジタルメディアの審査委員の一人であるインプレスの戸島國雄さんが講評会で『ハードウェアは文明でソフトウェアは文化である。メインストリームをつくってきたのは文化である。』という印象的な話をされました。まさしくその通りで、ソフトウェアには産業構造や社会構造を大きく変える力があり、それがオープンソースという新しい働き方というか、ライフスタイルにもつながっている点も興味深いですね。個人的にはこれからデザイン、そしてデザイナーが、オープンソースなどからどのような影響を受けるのかを探っていきたい。すでに気づいた人は勝手に個々人で動き出し始めていて、何か今までとちがうデザインがそろそろ生まれてくるかもしれませんね」

関連リンク

※グッドデザイン賞では、審査委員の評価をウェブで公開している。デザインモニターの声も募集しておりコメントとしてメッセージが書き込める。また、サイト全体に「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」が導入されている。

参考:

「デザインを媒介にして異なる分野の人やモノがつながっていく機会を作っていきたい」と語る矢島さん。「オープンソースがデザインに影響を与える日もそう遠くないかもしれませんね」グッドデザイン賞受賞作品を紹介する「ワールド プレミア」会場にやってきたフォクすけの質問にもやさしく答えていただいた。日本産業デザイン振興会でグッドデザイン賞の運営を担当している矢島進二さん。51 回目の今年からソフトウエアやサイトなどを対象にした審査に力を入れている。